ニューストピック[2008]

2008(平成20)年

2008. 12.10
荒瀬透君 (79期)が日本生殖免疫学会で学会賞を受賞


 平成20年12月6日(土)、7日(日)に富山国際会議場において第23回日本生殖免疫学会学術集会が開催された。現在、生殖領域における機能および病態の解明に免疫学の概念は必須とされ、今年も産婦人科領域にとどまらず獣医学、基礎医学の分野からも多数の演題が発表された。

  その中から今回「子宮内膜におけるP2RY14を介した新たな粘膜防御機構」の演題を発表した荒瀬透君(写真:79期、けいゆう病院)が学会賞に選ばれた。同君の発表は本年度の日本産科婦人科学会学術集会で報告した内容を更に進めたものであり、非自己である病原微生物を認識して作動するという従来の粘膜防御機構の概念とは異なり、自己の細胞障害によって放出される細胞内在性物質UDP-グルコースを周辺の内膜上皮細胞がP2RY14を介して認識することにより免疫機構が賦活し、免疫担当細胞を障害部位局所に集簇させるというメカニズムが子宮内膜に存在することを明らかにしたものである。

  雌性生殖器官で中心的役割を担う子宮では、月経というドラスティックに組織構築が崩壊する状況下でも免疫能が維持される点について現在もなお不明な点が多いが、この新たに提唱された粘膜防御機構が深く関与している可能性が高いことから、今後継続的な研究が解明の糸口となることが期待される。

 
2008. 11.14
阪埜浩司君 (71期)、長島 隆君(78期) が三四会奨励賞を受賞


 去る11月14日に病院新棟11階会議室で三四会奨励賞の授賞式が執り行われた。臨床医学部門、基礎医学部門よりそれぞれ優秀な業績をあげた若手医学研究者に対して授けられる賞であるが、本年度は当教室より阪埜浩司君(71期)と長島 隆君(78期)が選ばれ、喜ばしいダブル受賞となった。


 阪埜君(写真左。右は三四会比企会長)は、新聞報道(下記参照)にもあったように、「子宮体癌におけるエピジェネティックな異常による発癌機構の解析とその診断技術としての利用」の一連の業績に対して賞が贈られた。同君の業績は子宮体癌の発癌機構解析と同時に、予後推測など臨床への応用が大きく期待されるものであり、高い評価を得ている。

 一方、長島君(写真下)の業績は同君が所属していた生殖内分泌研究室で主催の丸山哲夫講師が自身進めていた子宮内膜の脱落膜化の分子機序研究を継承・発展させたもので、非受容体型チロシンキナーゼSrcのリン酸化シグナルの下流分子を同定したものであり、脱落膜化のシグナル伝達地図をより詳細に描き出すものとなり、妊娠に備える子宮内膜のメカニズムに一歩踏み込むものとして評価された。

 今回時期を同じくして悪性腫瘍、妊娠双方の毋地となる子宮内膜研究に対してダブルで三四会奨励賞がもたらされたが、当教室において周産期・生殖医学、婦人科腫瘍学の両輪が、臨床・研究でお互い切磋琢磨している現状を映し出している。

 
2008. 10.23
升田博隆君 (76期) が日本生殖医学会学術奨励賞を受賞


 日本生殖医学会は1955年に「人類および家畜の生殖と資質の向上に関する共通の理論、およびその応用の研究について、学術の発展と人類の福祉に寄与すること」を目的として設立された、大変歴史の長い学会である(日本不妊学会が50周年を機に名称を変更した)。
  その第53回総会・学術講演会が10月23、24日に神戸国際会議場にて開催され、当教室の升田博隆君(76期)が平成20年度日本生殖医学会学術奨励賞を受賞した。同賞は生殖医学分野に関する卓越した業績に対して与えられる大変栄誉ある賞である。同君の業績である論文 ”Noninvasive and real-time assessment of reconstructed functional human endometrium in NOD/SCID/gamma c(null) immunodeficient mice” (Proceedings of the National Academy of Science of the United States of Americaに掲載)が評価の対象となり受賞に至った。
 
 月経困難や慢性的下腹部痛などにより女性のQOLを著しく損ねる子宮内膜症(内膜症)は、治療困難であるとともに発症機序やその病態生理も不明な点が数多く残されている。同君は、この内膜症をはじめとした内膜の研究ツールとして重要であるin vivoモデル動物の開発を行い、既存のモデル動物がもつさまざまな問題点を克服した新しい内膜モデルマウスの作成に成功した。このモデルは、ヒト子宮内膜と酷似した異所性内膜様組織を持ち、その内膜様組織を体外から長期にわたり非侵襲的かつリアルタイムに定量化可能であることから、内膜症および正常内膜のin vivo研究ツールとして極めて有用であると考えられる。今後も、内膜症に対する新規薬剤の評価システムとしての使用が期待されると同時に、内膜症の病態解明や正常内膜の機能メカニズム解明への貢献も期待され、その将来性も高く評価されている。

 

2008. 10.15
阪埜浩司君 (71期) の発癌メカニズム研究が新聞報道されました


 婦人科専任講師の阪埜浩司君(71期)による最近の子宮体癌発癌メカニズムの一連の研究が注目されている。6月17日の日経産業新聞に「慶大、遺伝子異常を解明」として記事掲載された。

 生体内での生命現象の大部分はタンパク質によって行われていると言える。そのタンパク質は設計図である遺伝子の情報をもとに都合良く作り出されてくるのであるが、この「都合良く」を支えるメカニズムが今、発癌機構の解明で着目されている。つまりタンパク質を作り出す量を増やしたり、減らしたりするシステムである。遺伝子をメチル化、アセチル化など飾り立てることで、生物はタンパク質を作るべきか、やめるべきかをタンパク質を作り出す役者に伝えているのである。
 阪埜君の業績は、この遺伝子修飾が子宮体癌患者では、特定の遺伝子において異常になされており、必要なタンパク質の生成を阻むことで癌化することを見いだした。つまり、その特定の遺伝子の異常な遺伝子修飾を調べれば、子宮体癌の診断技術を向上させることが可能というわけである。子宮頸癌の検査と違い、とかく疼痛を伴い敬遠されがちな子宮体癌の検査に新しい「痛くない」手法を導入するきっかけとなるものとして注目され、今回の記事掲載となった。

 
2008. 9.20
羽田智則君 (80期) がSLSにてHonorable Mention for Gynecology Video賞を受賞


 平成20年9月16日(火)から20日(土)にわたり、アメリカのシカゴにて17th SLS Annual Meeting & Endo Expo 2008が開催された。

 SLS(SOCIETY OF LAPAROENDOSCOPIC SURGEONS)はアメリカの内視鏡学会であり、各科の腹腔鏡手術を専門とする医師たちが集う学会である。比較的婦人科の発表が多い学会であるが、Video部門の中で羽田智則君(80期)の発表である、“Laparoscopic Myomectomy for Large Cervical Fibroids - Repair for the Lacerated Endocervical Mucosa”がHonorable Mention for Gynecology Video賞を受賞した。また、同君の所属する倉敷成人病センターの安藤正明部長(当教室客員准教授)は2つの演題でBest Video for Gynecology Video賞とHonorable Mention for Gynecology Video賞をダブル受賞した。

 羽田君の発表は、子宮筋腫の中でも手術の難易度が高い大型の子宮頚部筋腫に対して、腹腔鏡下での摘出方法および摘出時におこりうる頸管裂傷に対して、どのように腹腔鏡下にて縫合し、修復するかを発表したものである。欧米ではダヴィンチなどを使ったRobotic Surgery が主流を占めてきている中で、そういうものを用いなくても、細かい縫合操作が可能であることを示したものである。

 単純な技術修練にとどまらず、安藤客員准教授の下、新たな手術手法の工夫にも挑む同君の活躍ぶりは今後も大きく期待される。

 
2008. 7. 9
辻紘子君 (81期) がESHREにてBasic Science Award for poster communicationを受賞


 平成20年7月6日(日)から9日(水)にわたり、スペインのバルセロナにおいてThe 24th Annual Meeting of the European Society of Human Reproduction and Embryology (ESHRE) が開催された。ヨーロッパ最大の生殖医療・生殖医学の学会であり、世界中から第一線の医師・研究者が集う。
  数多くの興味深い先端の研究発表がなされる中で、Basic Science Award for poster communicationに辻紘子君(81期)の発表が選ばれた。”Xenografted human amniotic membrane-derived mesenchymal stem cells acquired immunologic tolerance and transdifferentiated into cardomocytes in vivo”のタイトルで発表された同君の研究は、羊膜由来間葉系幹細胞に着目した画期的なものである。同細胞を免疫寛容を有する(免疫不全ではない)ラットの心臓に移植すると、生着・生存し、しかもそれが心筋に分化しうること明らかにした。この事実は、羊膜由来間葉系幹細胞が移植治療において常に問題となる拒絶の問題をクリアすると同時に、心筋再生医療にとって大変有用な細胞ソースとなる可能性を提唱するものである。
  同君は大学院在籍中で、本学循環器内科の共同研究員として三好俊一郎講師のもと2年半のたゆまぬ努力の積み重ねの中で、今回の成果を上げている。同君の研究は現在進行形であり、羊膜由来間葉系幹細胞の有用性を世に示す今後の展開に期待が集まる。
(写真はESHREから贈呈された記念プレート)

 

2008. 4. 13
荒瀬透君 (79期) が日本産科婦人科学会において優秀演題賞を受賞

 
kaji 平成20年4月12日(土)から15日(火)にわたって、パシフィコ横浜において第60回日本産科婦人科学会総会・学術講演会が開催された。
 国内最大の産婦人科領域の学会とあって発表演題も多く、今年は1,117題を数えた。
 その中で特に優秀な演題に対して周産期医学部門、生殖医学部門、婦人科腫瘍医学部門からそれぞれ1題の3題が優秀演題賞に選ばれたが、生殖医学部門は、「ヒト雌性生殖器官における新しい感染防御システム ‐G蛋白共役型受容体P2Y14とそのリガンドUDP glucose‐」のタイトルで発表した荒瀬透君 (79期:写真右端)が受賞した。
 同君の発表は、子宮内膜腺上皮細胞の損傷によって、その細胞内部より放出される UDP glucose という内在性物質が、子宮内膜の腺上皮細胞に特異的に発現する P2Y14 と呼ばれる細胞膜表面受容体に結合することで、免疫細胞を招集するというメカニズムを詳細な分子機序とともに明らかにした。これは、細菌やウイルス感染を経由しない、新しい免疫賦活作用が子宮内膜に存在することを提唱するものであり、月経という毎月の剥離を宿命とする子宮内膜において、剥離のダメージの際の内膜基盤を保護するメカニズムとして注目に値するものである。 同君は丸山哲夫講師(写真中央)主催の生殖内分泌研究室において、旧制度専修医過程を終了後、特別研究員としてさらに1年間研究を継続した結果、今回の成果をあげた。 短期間でのこの成果は、従来の出向年次の変更希望を許し教室主任である吉村泰典教授が与えた貴重な機会を、同君の文字通りたゆまぬ努力が結実させたものである。
 なお、優秀演題賞候補演題として、内田浩君 (73期)、山田満稔君 (81期) が発表し、高得点演題に選ばれた小澤伸晃君 (67期:国立成育医療センター:写真左端)、岩田卓君 (74期)、平沢晃君 (74期)、渡邊広是君 (75期:荘病院出向中)、村上功君 (82期)、西尾浩君 (82期)、本教室へ国内留学中の成果を発表した太田邦明君 (東邦大) の中から、小澤君、岩田君、平沢君、村上君の4名がグッド・プレゼンテーション賞を受賞したことを付記する。
 

 
2008. 1.22
梶谷宇君がエンドメトリオーシス研究会演題発表賞を受賞

 
kaji 平成20年1月19日と20日の両日、高知県の高知市文化プラザかるぽーとにおいて、第29回エンドメトリオーシス研究会が開催された。同研究会において、当教室の梶谷宇(かじたにたかし)君が演題発表賞(基礎部門)を受賞した。
  子宮内膜症に興味を抱くPhDである梶谷君は、平成17年4月に特別研究助教として当教室の丸山哲夫専任講師率いる生殖内分泌研究室に赴任した。研究プロジェクトのひとつとして、浅田弘法専任講師とも共同で「子宮内膜症・腺筋症由来疼痛に関連する遺伝子の発現解析」と題し、病因・病態が不明な子宮内膜症・腺筋症について特に疼痛発来・進展機序に重点をおいた分子生物学的研究を行ってきている。その中で今回、成長因子NGFおよびCTGFが子宮内膜症・腺筋症組織に特異的に高発現していることを見出し、その発現解析と疼痛との関連づけを主とした発表が、同研究会で非常に優れた業績であるとの評価を受け、受賞に至ったものである。
  生粋のPhDである梶谷君が今回このように高い評価を受けたことは、本人の努力の結晶という意味以上のものもあると言える。言葉は流行するものの、なかなか実現の難しいトランスレーショナルリサーチであるが、今回の研究成果の結実は、臨床医学研究と基礎医学研究との綿密な連携の成功例として、本教室のより一層の発展が期待されるところである。