Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Boston
Edwin L. Steele Laboratory for Tumor Biology, Department of Radiation Oncology:
私は、産婦人科入局後、臨床研修・大学院での研究生活を経て、2002年12月より米国・ボストンのEdwin L. Steele Laboratory for Tumor Biology, Department of Radiation Oncology, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical SchoolにおいてPostdoctoral Fellowとして腫瘍血管新生の基礎研究に従事しています。
ボストンは米国にとって独立戦争の始まった古都であると同時に、ハーバード大学やMITなどの学術界での主要施設を擁する米国の頭脳といえる場所です。ハーバード大学の関連施設の中でもMassachusetts General Hospitalは全米最古の病院であると同時に、業績的にも経済的にもNIHの生命科学研究の最有力拠点といえます。
私の所属する研究室のボスであるRakesh K. Jain 教授はもともと化学技師で、正常組織や腫瘍での物質や酸素の輸送の研究より出発し、現在では様々な遺伝子改編マウス・実験的腫瘍を用い、主に生体顕微鏡下にて物質輸送や拡散などのパラメータの計測という手段により、腫瘍血管やリンパ管新生・機能の基礎的研究から抗腫瘍療法の効率化や新治療法の開発というところまでを視野に入れた様々な研究を展開しています。研究室は他のボストンの研究室と同様、周囲の研究に対する態度は真摯であり、常に明かりが消えることがなく、熾烈な競争が展開される場所ですが、逆に自己の研究能力を磨き、質の高い研究に接する格好の場所であるという印象を持っています。更に、ボストンで研究する利点として、自分の研究室だけでなく、周囲の環境、つまりボストン近隣の研究室・研究施設の質の高さ、情報の多さなどがあげられると思います。ボストンでの研究に関する情報量は世界一といってもいいほど膨大であり、最先端の話題の量、その伝達の速さには目を見張るものがあります。これにはやはりボストンの研究者人口の大きさが貢献しているように思います。特定の学問分野の著名な研究者の多くがボストンに集中していることもまま見られることですし、これらの人々によるセミナーの多さ、そこで交わされる情報量などから判断しても学術会で無二の環境を作り出しているといえます。
私も渡米後2年が経過し、生活、研究にもある程度慣れてきた頃なのですが、このすさまじい環境で研究資金を獲得し、生き残ってきているボスのJain先生を見ていると、アメリカの研究者というものの厳しさを感じることがしばしばあります。ずば抜けた記憶力と瞬時に物事を見抜く洞察力という生来の才能だけではなく、質素な生活の中で、膨大な量の文献・情報を絶え間なく勉強し更新するという莫大な努力も払っている点に多くを学び、自分の不勉強さを痛感させられると同時に、研究者や研究環境の本来あるべき姿についても毎日考えさせられています。
現在、妻(同じく慶応の産婦人科医局)も同じくMGHの一研究室にて生殖医学の研究を開始し、夫婦二人で研究生活を送っています。二人とも実際に異国で仕事を遂行する難しさを肌で感じています。しかしながら、やはり単なる旅行や滞在と違い、この体験を通し、二人でアメリカの生活習慣や文化を堪能することができています。前述の通り、ボストンは古い植民地時代の歴史を持つニューイングランド地方の古都で、寒冷な気候ですが、ニューヨークと共にアメリカの文化の一つの中心となっています。ここでは米国の伝統や習慣に接する機会も多く、今年もボストンから86年ぶりのレッドソックスの優勝やマサチューセッツ州選出の上議院議員のKerryの大統領選への出馬など大きな話題が発信されました。二人の毎日と言ったら、その時の喧騒や話題などを実際に体験しつつ、何とか二人で乗り切りながら、こちらも一筋縄では行かない研究を何とか毎日こなしているといったところでしょうか。外国での仕事や生活は必ずしも順調なものではありませんが、この機会を大切に米国での時間を過ごしています。