研究

海外留学

竹田 貴(平成22年卒)

Ovarian Cancer Cell Laboratory
MRC Weatherall Institute of Molecular Medicine
Nuffield Department of Women’s & Reproductive Health
University of Oxford, UK

留学一年を過ぎて

こんにちは、平成22(2010)年卒の竹田貴です。2022年11月より英国オックスフォード大学に留学させていただいております。所属はNuffield Department of Women’s & Reproductive Healthになり、実際に研究室がある建物はMRC Weatherall Institute of Molecular Medicineで、その中に留学先であるOvarian Cancer Cell Laboratoryがあります。Ahmed Ashour Ahmed教授の指導のもと、卵管オルガノイドを用いた卵巣癌発癌モデルの確立および超早期診断・予防法の開発の研究に従事しております。はじめに、留学にあたり快く送り出してくださった青木大輔前教授、田中守教授、叱咤激励して下さった阪埜浩司前准教授、出向先であった那須赤十字病院から留学に送り出して下さった白石悟先生(統括顧問兼名誉院長)、また山上亘教授をはじめ教室員の先生方に感謝申し上げます。

留学のきっかけは、2019年に増田健太先生が同研究室に留学していた際に、田中守教授を訪問団長として、RCOG(英国王立産科婦人科学会)への参加とオックスフォード大学への訪問見学・交流の機会を得たことでした。その際に、当時大学院生であった自分の研究を説明したり(現在の研究とは全く異なる内容でしたが)、オックスフォード大学の研究室を見学させていただいたりし、研究留学を強く意識するようになりました。医学研究における留学で最も選ばれるアメリカよりも、奇しくも小学生の頃に1年ほど過ごしたイギリスへの訪問は、自分の中に英国留学の気持ちを強く植え付けました。大学院修了後早期の留学を目指しておりましたが、大学院卒業の2020年3月はコロナパンデミック開始の時と重なり、出向先であった那須赤十字病院にて臨床に没頭しているうちに、留学への意識が徐々に薄れておりました。そんな中、以前より留学の希望を話していた阪埜先生から叱咤激励をもらい、自分を奮い立たせ沢山の申請書を書き、多くのリジェクトを受けつつも、留学時の就労ビザ取得に必要なフェローシップを獲得することができ、留学を開始することができました。留学当初は、日照時間の短いイギリスの暗い冬と学校への転校手続きがなかなか進まなかった子供3人を連れての留学で、強いストレスとプレッシャーを感じましたが、幸い研究室のメンバーはみんな良い人ばかりで、慣れるまでの間に沢山気を遣ってくれました。また、2019年の訪問時に知り合いになっていたオックスフォード大学産科の松宮先生(以前慶應大の医学英語教育にも携わっていました)や留学開始当時にちょうどオックスフォード大学産科研究室に大学院生中に留学していた阿部雄志君(98回生)の存在は、大きな支えになりました。また、オックスフォードに留学に来ている日本のドクターとも出会い、現在では月一で「Headingtonの集い」というパブ会を行い、色々な情報交換を行なって支え合っています。

さて、留学先のラボですが、もともと婦人科腫瘍医として臨床もされていたエジプト出身のAhmed教授が主催しておりますが、コロナ禍以降は臨床を退き、基礎研究に専念しています。もちろん臨床医のチームとは連携して、手術検体を用いた研究活動をしています。ラボメンバーは、イタリア、インド、エジプト、レバノン、中国、イギリス、パキスタン、キプロス出身と多種多様な背景を持つメンバーで、数名の大学院生のほか、すべて博士研究員として研究に専念している研究専門集団です。また、一部のメンバーはAhmed教授がこれまでの研究で得た特許技術を基に、出資者として設立したバイオベンチャーであるSingula Bioに勤めており、医学研究におけるアカデミックと企業の両方の側面を持った研究が行われており、それらの違いと移行性を感じながら研究をしています。研究内容も多岐に渡り、発癌機序解明として、ヒト正常卵管由来の卵管オルガノイドを用いた発癌モデルの開発、卵巣癌新規早期診断法の開発、微小残存癌を治療標的とした新規治療法の開発、遺伝子発現プロファイルによる治療選択法の開発、卵管免疫細胞の機能解明による発癌予防法の開発、そしてバイオベンチャー企業においては卵巣癌における免疫療法の開発およびワクチン予防法の開発が進んでいます。一見してそれぞれ独立のテーマのようにも見えますが、実はそれぞれのプロジェクトはお互い連動している部分もあり、相乗的に研究が進んでいることを実感します。それぞれのプロジェクトを指導するAhmed教授の手腕を身近でみることは非常に勉強になります。また英国に留学してみると、かなりの競争社会であることを感じます。大学院生は、当初DPhil Candidateとして研究を開始し、自らのグラント、フェローシップを獲得してDPhil Studentとなり、研究を進めて晴れて学位を取得できます。学生ですら自ら数百万円単位の生活費・研究費を獲得して研究に取り組んでおり、さらには業績を残している博士研究員は数千万円単位の研究費を持ち、さらには第一線を走る研究者には億単位の研究費が動いているという話も聞きます。また、国際的な繋がりも強く、ヨーロッパ、アメリカなどの大学や研究所との共同研究も広く行われています。実際、ヨーロッパ間の移動はかなり近いため、日本国内の感覚に近く移動が可能です。実際、フランスやスペインの学会にも参加させてもらいまして、ヨーロッパの新たな研究者や臨床医と繋がりを持つことができ、非常に刺激的な環境で過ごさせてもらっています。

さて、真面目な研究の話ばかりでなく、折角ヨーロッパにいるので休暇中の話も少し。こちらはイースターホリデーやクリスマスホリデーなど「休み」に対する意識が強く、その間に色々な事務作業が完全にストップします。実験が進められなかったりもするので、最初はこんなに休んで良いのか戸惑いましたが、頑張って休む時は休むようにしました。日本では働き方改革の真っ只中ですが、こちらは休み方からそもそも違うなと感じます。さて休暇に話を戻しまして、ヨーロッパ間の移動がお手軽なので、ブルガリアへのスキー旅行、アイスランドへのオーロラ旅行、ギリシャでのクルーズ旅行など、なかなかユニークな旅行を経験しました。子供達も楽しそうにしており、親として喜ばしい限りです。また、子供に関しては現地の学校に通っておりますが、ものの1ヶ月で慣れ始め、今では興奮すると家でもペラペラ英語を喋っています。

さて、つらつらと留学体験記を書いてきましたが、ぜひ若手の先生には国内のみならず海外に目を向けてチャレンジをしてほしいと思っています。海外学会発表、短期の海外交流プログラムでも多くの学びと出会いがあると思います。海外留学も、基礎研究のみならず臨床研究や完全に臨床ベースでもありだと思いますし、留学に来てみると実際そういった人々に多く出会います。日本にいれば基本安全で安定した暮らしがありますが、広い視野を持ってもらい、自由に動きやすいうちに留学や留学のみならず多方面にチャレンジしてもらいたいなと思います。日本に戻った際は、そんな若手の先生を鼓舞してサポートしたいと思いますし、引き続き海外との交流に関わりたいと思います。目下、現在の研究自体は進んだり、躓いたりの繰り返しで、最終的には研究成果を特許申請に持っていきあtいとこちらのボスと話したりしておりますが、なんとか食らいついてそこまで持っていって留学を終えたいと思っております。ここから先がさらに正念場とは思いますが、精進して引き続き頑張ってまいりますので、温かく、時に厳しく見守ってくださりますと幸いです。また、皆様にお会いできる日を楽しみにしています。

オックスフォード産婦人科医の集合写真とも言える松宮先生、阿部先生と
オックスフォード産婦人科医の集合写真とも言える松宮先生、阿部先生と

Headingtonの集い。オックスフォードにいる医学研究仲間と
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2022年ラボdish partyにて各自、食事を持ち寄り、多国籍料理の並ぶpartyになりました。
2022年ラボdish partyにて各自、食事を持ち寄り、多国籍料理の並ぶpartyになりました。

>イギリス生活を家族で協力しながら、楽しんでいます
イギリス生活を家族で協力しながら、楽しんでいます。

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