最近では、子宮体癌に罹患する患者さんの総数が増えているのに伴い、若年で罹患する方も増加しております。妊娠希望があるものの子宮体癌に罹患された若年の患者さんの苦悩は察するに余りあります。
子宮体癌の前癌病変とされる子宮内膜異型増殖症(以下、異型増殖症)の方、または子宮体癌のIA期のうち、画像検査上子宮の体部の粘膜内に癌が限局しており、かつ高分化型(グレード1、G1)(以下、早期体癌)である患者さんで、妊孕性温存を強く希望される方には、標準治療である子宮摘出という手術療法以外に、高用量黄体ホルモン療法という保存的な治療法も選択肢のひとつであることも説明しております。治療の適応かどうかを確認するための事前検査として、MRI、CT、子宮鏡検査、子宮内膜組織診、子宮内膜細胞診、凝固系・肝機能血液検査などを受けていただく必要があります。(本治療法の適応の詳細は表1を御覧ください)
治療内容は高用量の黄体ホルモンを1日2-3回内服していただくことですが、この治療中は治療開始時と終了前には子宮内膜全面掻爬という処置を1泊2日の入院で、静脈麻酔下に行います。また1か月に1回外来で超音波、内膜組織診・細胞診検査で治療効果を確認するとともに、問診や血液検査で副作用を確認します。
当院では1998年から2021年までに、約410名の患者さん(パートナーがいない方も含めて)に対して高用量黄体ホルモン療法を施行しており、本邦でもトップクラスの治療経験を有しております。当院で治療を開始した患者さんの治療成績の詳細は表2のとおりですが、異型増殖症の98.0%、早期体癌の91.9%の方で病変の消失を認め、その結果子宮摘出が回避できています。しかしながら、病変が子宮内に再出現する頻度も高い(異型増殖症の38.8%、早期体癌の65.6%)ため、治療終了後は積極的に排卵を誘発して早期の妊娠を目指して、不妊治療専門の医師の外来に通院していただくこともあります。未婚の方の場合は、再発予防を目的に、定期的に少量の黄体ホルモンを内服していただき、薬物的に内膜剥離が起こるようにします。
2020年7月の時点で、114名の患者さん(再発治療後の方も含む)が治療後に妊娠に至り、113名の生児が誕生しており、パートナーのおられる方の妊娠率は41.3%です。
なお、子宮体癌との鑑別が難しい疾患である異型ポリープ状腺筋腫(以下、APAM)という比較的稀な病気の方も多数受診され、子宮鏡下で直視下に病変を切除するという手術療法も併用して高用量黄体ホルモン療法を行っており、良好な成績が得られています。
また、上述した方だけでなく、次のような状況でお困りの方も当院なら子宮を温存できる可能性があります。ぜひご相談ください。
治療開始前の腫瘍量が多かった方の場合には、ホルモン療法の効果が認められる場合であっても、なかなか腫瘍が消失しない方がいらっしゃいます。6ヶ月以上ホルモン剤を内服したにも関わらず、病変が消失しない場合、子宮摘出を奨められる場合が多いですが、ホルモン療法に手術療法を適切に組み合わせることにより、治療効果が上がり病変が消失する可能性があります。
当院ではホルモン療法後に子宮内に再発を認めた方も、当科では条件が適合すれば、高用量黄体ホルモン療法の再施行を積極的に行っております。再発治療時の病変消失率は、異型増殖症で96.5%、早期体癌で96.3%と、初発治療時と遜色のない良好な病変消失率を認めております。再発治療後に妊娠出産された方も少なくなく、数回の再発治療後に妊娠された方もいらっしゃいます。
一般的に、画像診断で筋層浸潤が認められる場合は高用量黄体ホルモン療法の適応にはなりません。しかしながら、画像診断の精度は100%ではないことや、子宮体癌と類似した病気であるAPAMではしばしば画像診断で筋層浸潤に似た像を呈することがあります。当院では慎重に筋層浸潤の評価を行い、なるべく多くの方の子宮の温存を目指しています。
早期体癌または異型増殖症に対する高用量黄体ホルモン療法は標準治療と違い、再発率が高い治療ですから、子宮摘出までの時間を稼ぎ、その間に妊娠をしていただくことを目標とした治療になります。したがって、子宮摘出にかわる代替治療としてはお薦めできず、今後の妊娠の希望なく、子宮摘出の回避だけを希望した高用量黄体ホルモン療法は、当院では施行しておりません。
なお、万が一残念ながら子宮温存が不可能な場合、当院では腹腔鏡やロボットを用いた子宮体癌手術を保険診療で行っております。最小限の創での手術で、退院後の早期の社会復帰が可能です。また、若年例でごく早期の高分化癌の方では、卵巣温存も行っております。
当科では、日本全国で実施している[子宮内膜異形増殖症及び子宮体癌に対する高用量黄体ホルモンとメトホルミン塩酸塩の併用医師主導治験]に参加しています。(なお本治験患者さんの募集は2023年3月現在終了しています。)
また、再発患者さんに対する「子宮体がん・子宮内膜異型増殖症に対する妊孕性温存療法後の子宮内再発に対する反復高用量黄体ホルモン療法に関する第II相試験」にも参加しています。
これらを、詳しく知りたい方はこちら
治験情報WEBサイト
https://jgog.gr.jp/jgog2051_REMPA/