木須伊織君(83期)が慶應医学会 野村達次賞を受賞
木須伊織君(83期)が令和2年11月21日に開催された第100回慶應医学会総会にて野村達次賞を受賞し表彰されました。
野村達次賞は明確な臨床応用を見据えた動物実験医学を展開し、「in vivo実験医学」を長年に亘り牽引されてきた野村達次先生(24期)のご業績を永く讃えるとともに、in vivo実験医学の発展と臨床への活用において、世界に真価を問う斬新な医学研究を行っている研究者に対して贈られる慶應医学会の名誉ある賞である。これまで当教室での受賞者はおらず、当教室初の受賞者となった。さらには記念すべき第100回の慶應医学会総会(Web開催)での受賞であり、受賞講演では多くの慶應医学部関係者に傾聴された。
受賞研究テーマは、「非ヒト霊長類動物における子宮移植技術の開発:新たな生殖医療技術の臨床応用に向けて」である。木須君は子宮性不妊女性の挙児を目指して子宮移植という新しい医療技術を発案し、2009年より霊長類であるカニクイザルを用いて10年以上にわたり子宮移植の基礎実験を行ってきた。これまで約100頭のカニクイザルを用いて、霊長類動物のおける子宮自家移植後ならびに子宮同種移植後の出産にそれぞれ世界で初めて成功し、世界の子宮移植研究を飛躍的に前進させた。また、子宮血流動態の解析、低侵襲ドナー手術手技の開発、子宮虚血許容時間や拒絶反応の臨床的特徴の検討など、これまでに多くの基礎的データを蓄積し、世界での子宮移植の臨床応用の展開に多大なる貢献をしてきた。
そして、現在は我が国における倫理的社会的課題の解決に取り組み、関連学会(日本医学会、日本産科婦人科学会、日本移植学会)や厚生労働省へ働きかけ、日本社会や関連学会への啓発活動、日本子宮移植研究会の設立や慶應病院内の子宮移植ワーキンググループ活動に従事しながら、社会的コンセンサスの形成や臨床応用に向けた体制作りを行い、基礎実験で培ってきた技術や科学的知見を元に国内初の慶應病院での子宮移植の臨床応用の実現を目指している。
これらの臨床応用を見据えた長期間に亘る継続的な基礎実験の成果がまさに本賞の受賞者に合致すると高く評価され、今回の受賞に至った。本研究は日本の将来の学術研究において新たな歴史を刻むことはいうまでもなく、子宮性不妊女性に大きな福音をもたらすことが期待される。今後も木須君の我が国における子宮移植の臨床応用へ向けた取り組みに注目したい。