産婦人科領域の腹腔鏡下手術は、画像機器、凝固切開装置の改善、鉗子類などの改良によって適応が拡大するとともに一般的なものとなってきました。医療技術にはメリットとデメリットが常に一定のバランスで存在します。腹腔鏡手術のメリットは、疼痛の軽減、入院期間の短縮、術後癒着の低下、出血量の低減などがあり、これらのことは特に妊孕性温存手術にとっては大きなメリットとなっています。また、手術の性質上、拡大鏡による手術となりますので、開腹手術で行われていたマイクロサージェリー的な手術手技が腹腔鏡下に施行可能な時代となってまいりました。一方で、問題となる点は、合併症の発症です。当院においても腹腔鏡と予定されていて、腹腔内の強度の癒着や止血などのため、途中で開腹手術に変更することが約1~2%の症例で生じています。
子宮筋腫はとても頻度が高い疾患です。すべての子宮筋腫が治療対象となるわけではありませんが、過多月経(月経量の増加)、骨盤痛、腹部の腫瘤感、尿意が近い等の症状が生じてきた方や、挙児希望の方で筋腫以外に不妊の原因が見あたらない方などは、治療が必要になります。治療方法としては、薬物による治療、UAE(子宮動脈塞栓術)、腹腔鏡手術、および開腹手術などがあります。患者さんの状態により治療方法を選択します。
子宮内膜症については、月経困難症、慢性骨盤痛、性交時痛、排便時痛、過多月経などいろいろな症状を持つ患者さんがいらっしゃいます。もちろん無症状で治療が必要ない方から、不妊症の検査中にはじめて診断される方もいらっしゃいます。治療法としては、薬剤による治療および外科的治療があります。薬剤による治療としては、消炎鎮痛剤、ピル(経口避妊薬)、黄体ホルモン剤、GnRH製剤などがあり、患者さんの症状や、病状によって薬物治療、外科的治療を選択して治療を行っています。
外科的治療になった場合は腹腔鏡手術が主な治療法となります。卵巣や腹膜の子宮内膜症をはじめ、子宮腺筋症の切除や消化管子宮内膜症に対しても切除を行う場合があります。内膜症の再発に対する問題は今後解決していく必要がありますが、疼痛の緩和という点と、確定診断ができる(病理診断)という点からは手術が有効です。特に子宮内膜症による卵巣嚢腫の悪性変化については、近年問題とされるようになってきました。子宮内膜症の卵巣嚢腫の方の一部に卵巣の悪性腫瘍が発生しやすいという報告があり、嚢腫の大きさと年齢などに応じて詳細な経過観察と外科的治療が必要となる場合があります。治療法については主治医の先生とよく相談されることをおすすめいたします。
卵巣嚢腫で頻度が高いのは皮様嚢腫という卵巣嚢腫です。卵巣の中に、皮膚や歯の成分ができる嚢腫です。嚢腫の大きさや性状、症状に応じて外科的治療が必要となります。また、その他の卵巣腫瘍は多岐にわたります。自然軽快する機能性嚢胞から悪性疾患までありますので、腫瘍マーカー検査、画像診断などを適宜行い、必要な場合に外科的治療を行います。
排卵障害のなかで多嚢胞性卵巣症候群という病気があります。排卵が起こらず、その名のとおり多数の小卵胞ができます。第一選択は経口の排卵誘発剤使用ですが、腹腔鏡下焼灼術などの外科的治療も選択肢の一つとなっています。
腹腔内の癒着剥離術は、腹腔鏡の技術的向上により、腹腔鏡手術によって行われることも増えてきています。拡大鏡であることのメリットを生かして、精度を高めた手術が可能であると考えています。一方、触覚に関しては内視鏡手術が不得意とするところですので、触覚が特に必要な場合や、高度の癒着がある場合は開腹手術が選択されます。
手術中に予想外の出血を認める場合、緊急に開腹手術に移行したり、輸血を使用する場合があります。ただ、一般的には、開腹手術と腹腔鏡手術で同じ手術を比較すると、出血量は腹腔鏡手術の方が少ないことが多いとされています。 輸血に関する説明は、術前説明の時に詳しくお話しさせて頂くこととなっています。
エコノミークラス症候群という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、長い間同じ姿勢を保っていると、体のなかの太い血管に血の固まりができて、この固まり(血栓)が血管を介して移動し、肺の動脈に詰まってしまうという病気です。肺塞栓の発症は始めから予測することはできませんが、できるだけ予防するためにいくつかのことを行っています。特殊なストッキングをはいていただいたり、足を周期的に圧迫する機械をつけたりします。また、少しつらいですが、原則として手術翌日の朝から歩いていただき、安静とはしておりません。患者さんによっては術前からヘパリンという血栓の予防薬を使用する場合もあります。
腹腔鏡手術では、自動的に止血と切断を行う機器を多用します。電気メス、超音波メス、レーザーメスなどで、一般的には熱を加えることで機能を発揮する機器です。腹腔鏡手術は視野が限られていることもあり、子宮の近くの臓器である、膀胱、尿管、直腸などの消化管および大血管に損傷が及ぶ可能性があるといわれています。数日後に症状がでてきたために、消化管の再吻合や一時的な人工肛門などの外科的処置が必要となることもあります。このようなことが起こるのは非常にまれですが、悪性腫瘍や子宮内膜症の方の場合は、癒着が直腸や尿管近くに及んでいる可能性があるので、細心の注意をはらって手術を行っています。
また、手術の時におなかの中に二酸化炭素が入っているため、術後数日間は少し強めの肩こりのような肩の違和感と、胃のあたりの重い感じがあるかもしれません。これはおなかの中のガスの影響とおなかをふくらませていた刺激が残っているためです。
原則として全身麻酔になります。麻酔は麻酔科医が管理いたします。麻酔科の先生の判断で、硬膜外麻酔という背中から行う局所麻酔を追加することもあります。手術を当院で受ける方には、手術前に麻酔説明外来で麻酔科医から説明を受けていただくようになっています。
平均的には、手術後1週間程度で退院する予定になっています。
手術の内容と入院期間によって費用は異なりますが、だいたい、下記のようになっています。
一つの目安として参考にされて下さい。
(入院する病棟、輸血や止血剤の使用、入院期間、入院された病室の種類等によって変動いたします。)