私たち胚培養士は、患者さんからお預かりした卵子や精子、受精卵(胚)を体外で取り扱う技術者です。例として、精子の調整、採卵における卵子の探索、精子と卵子の授精操作、胚の観察(評価)、凍結や融解、胚移植における胚の操作などが挙げられます。こうした精子や卵子の操作だけでなく、培養室の維持・管理や、データ集計と治療へのフィードバックも行います。当院の培養室には7名の胚培養士が在籍しており、安全で高水準な胚培養の提供を共有の理念として日々の作業を行っております。安心してお任せください。
●1人でも多くの患者さんが健康なお子さんをもてるように最善を尽くします。
●卵や精子を最適な環境下で丁寧に取り扱います。
●安全を重視し、卵や精子の取り違えを100%防止します。
胚培養士は精子や卵の取り扱いを一手に引き受けるため、胚培養士の技量が不妊治療の成否に大きく影響します。当院では7名の胚培養士が在籍しており、そのうち3名は10年以上の経験をもっています。多様な施設の知見が集まっており、その中で最良と考えられる方法を取り入れています。
すべての患者さんに高水準の胚培養技術を提供するために、業務の標準化、胚培養士の教育、治療成績の集計を行っています。業務を標準化することで初めて、すべての胚培養士がいつも同じように高いレベルの作業を実施することができます。
当院では新人胚培養士の教育プログラムを整備し、培養室の主任が患者さんの卵や精子を扱ってよいレベルにあることを確認してから、実際の治療に参加しています。胚培養士が万全の状態でも、機器や培養液の不具合など、不慮のできごとによって胚培養に問題が生じる可能性があります。そこで、治療成績を随時集計・監視することで、胚培養で問題が起こっていないことを確認しています。
不妊治療において卵や精子の取り違えは絶対に起こしてはなりません。また、患者さんからお預かりした卵を紛失することも避けなければなりません。これらの事故を防ぐには、十分な数の胚培養士を安定的に確保する必要があります。当院は安全な業務体制を重視しており、十分な胚培養士の人数を確保し、離職率の低減に努めています。
さらに取り違え防止を徹底するために、RFIDタグを用いた機械照合システム(RI witness TM)を導入しています。RI witnessの詳細はこちらをご覧ください。
https://coopersurgicalfertility-jp.com/products/riwitness/
安全な業務のためには小さなヒヤリハットやインシデントの収集が大切です。その都度、要因分析や対策の実施と評価を行い、大きなインシデントの発生を防止しています。
新しい知見を積極的に発信し、不妊治療業界の発展に努めることは、大学病院としての責務です。 それと同時に、個々の胚培養士のレベルアップにもつながり、当院にいらっしゃる患者さんへの利益にもなっています。
[ 書籍 ]
• 宇津野宏樹,浜谷敏生,人工授精に用いる精液の凍結保存法,柴原浩章(編),「スキルアップARTラボ 生殖補助医療の必須知識とテクニック」,364–368,2022.
• 宇津野宏樹,吉野弘美,高橋克彦,後藤哲也,ヒト胚の培養法と評価,日本卵子学会(編),「生殖補助医療(ART)胚培養の理論と実際」,244–251,2017.
[ 論文 ]
• Akashi K, Yamada M, Jwa SC, Utsuno H, Kamijo S, Hirota Y, Osuga Y, Kuji N, Artificial oocyte activation using Ca2+ ionophores following intracytoplasmic sperm injection for low fertilization rate, Frontiers in Endocrinology, 14, 2023. DOI: 10.3389/fendo.2023.1131808.
• Utsuno H, Ishimaru T, Matsumoto M, Sasamori C, Takahashi H, Kimura H, Kamijo S, Yamada M, Tanaka M, Hamatani T, Morphometric assessment of blastocysts: Relationship with the ongoing pregnancy rate, F&S Reports, 4:85–92, 2023. DOI: 10.1016/j.xfre.2022.11.001.
• 浜谷敏生,宇津野宏樹,木村寛子,宮崎康太郎,福岡美桜,田中守,生殖補助医療 (ART: Assisted Reproductive Technology)の実際, 臨床検査,2023年1月号.
• 明石一浩,宇津野宏樹,山田満稔, AYA世代の女性ヘルスケアー対応と実際, F. 生殖機能維持と保存 3)生殖補助医療による妊孕性の可能性と限界,産婦人科の実際,2022年臨時増刊号.
• 福岡美桜,山田満稔,宇津野宏樹,上條慎太郎,浜谷敏生,田中守, 人工授精の際の精子調整・精子凍結の方法と留意点,臨床婦人科産科,76(4):239–243,2022.
• 宇津野宏樹,胚培養技術,検査と技術,50(2): 134–143, 2022.
• 上條慎太郎,宇津野宏樹,浜谷敏生,不妊・不育 精液凍結保存を行うにあたっての患者説明,臨床婦人科産科,75(4):183–186,2021.
• Utsuno H, Theory and practice of sperm DNA integrity tests, Journal of Clinical Embryologist, 17:27–38, 2015 (Japanese).
• Utsuno H, Miyamoto T, Oka K, Shiozawa T, Morphological alterations in protamine-deficient spermatozoa, Human Reproduction, 29:2374–2381, 2014. DOI: 10.1093/humrep/deu225.
• Utsuno H, Multiple comparisons: the problem and approaches to their correction, Journal of Clinical Embryologist, 16:5–8, 2014 (Japanese).
• Utsuno H, Oka K, Yamamoto A, Shiozawa T, Evaluation of sperm head shape at high magnification revealed correlation of sperm DNA fragmentation with aberrant head ellipticity and angularity, Fertility and Sterility, 99:1573–1580, 2013.
[ 学会発表 ]
• 辻千紘, 宇津野宏樹, 石丸智子, 松本美保, 髙橋ひかる, 山田満稔, 上條慎太郎, 木村寛子, 内田浩, 浜谷敏生, 田中守,出生率を予測するための胚盤胞の定量的形態指標の開発,第64回日本卵子学会学術集会,2023年5月21日,つくば市,ポスター.
• Kimura H, Utsuno H, Hamatani T, Miyazaki K, Kamijo S, Mizuguchi Y, Uchida S, Yamada M, Uchida H, Maruyama T, Aoki D, Tanaka M. Association between quantitative evaluation of blastocyst morphology based on estimated cell number of trophectoderm and continued pregnancy rate. 第74回日本産科婦人科学会学術講演会, 2022年8月, 福岡市, ポスター(English).
• 吉政佑之,浜谷敏生,宇津野宏樹,富里祥子,上條慎太郎,水口雄貴,山田満稔,内田明花,内田浩,丸山哲夫,田中守,GID症例における提供精子を用いた人工授精の成績,GID(性同一性障害)学会 第22回研究大会,2021年4月3-4日,オンライン開催.
• 齋藤早貴, 山田満稔, 宇津野宏樹, 石丸智子, 松本美保, 上條慎太郎, 浜谷敏生, 田中守,当院におけるAYA世代のがんおよび自己免疫性疾患に対する治療前および寛解後の妊孕性温存療法の現状,第65回日本生殖医学会学術講演会・総会,2020年11月,口頭.
• 永田美香,上蓑義典,猪瀬里夏,近藤直美,中川央充,藤森祐多,青木渉,尾﨑裕子,宇津野宏樹,猪狩嘉孝,石原治,加藤藍,横田浩充,村田満,新型コロナウイルスPCR検査における唾液検体の保存安定性の検証,第66回日本臨床検査医学会,2020年11月.
• 宇津野宏樹,石丸智子,松本美保,渡邉久美,上條慎太郎,浜谷敏生,田中守,栄養外胚葉の推定細胞数に基づく胚盤胞形態の定量的評価と継続妊娠率の関連,第64回日本生殖医学会学術講演会・総会,2019年11月,下関市, 口頭.